ふと、私は何のために自分磨きをしているのだろうと立ち止まることがある
彼氏なんていないから、可愛く施したメイクを披露する相手がいるわけでもなく、綺麗にケアした素肌を見せる相手がいるわけでもなく、脱毛した肌を触れ合わせる相手がいるわけでも、おしゃれにコーデした服をお披露目できる相手がいるわけでも、太っていようが痩せていようが苦言を呈してくる相手がいるわけでもない
それでも、私はメイクをするのが好きだし、巷を賑わせるスキンケア商品には飛びつくし、体重の増減に一喜一憂する
だから、多分、本当に多分だけど、私は自分のために、自分磨きをしているのだと思う
誰からも褒められない『私』を、褒めてあげられるのは私しかいないから
せめて私だけは、『私』を綺麗に着飾って、褒めてあげようとしているのだと思う
メイクは自分に自信を持つため
メイクは武装だと誰かが言った
“メイクは武装”
この言葉には、それぞれの立場で含意も異なってくるだろう
笑顔の下の本心を隠すためのメイク
泣けない状況に自分を追い込むためのメイク
コンプレックスを隠して外界に踏み出すためのメイク
“社会”という名の現代の戦場は、メイクという鎧をまとうことで、少しだけ息がしやすくなる
私にとってメイクは、自分の弱点・コンプレックスを隠してくれる大切な甲冑
目立つ位置にできてしまった赤みを帯びたニキビ跡も、どうしても気になってしまう人中の長さも、くっきりと出ている瞼下の一本線も
メイクが全部、無かったことにしてくれる
コンプレックスを消し去って、自分の顔に少しだけ自信を持たせてくれる
スキンケアは自分を好きになるため
スキンケアはベースメイクだと思っている
どれだけ良い化粧下地を使っても、使うその肌が荒れていれば、メイクの仕上がりは悪くなる
肌は生活習慣を映す鏡
食事や睡眠の乱れがダイレクトに反映されてしまう
だから、肌の調子・メイクのりが良い時は、少しだけ自分を好きになれる
ちゃんと規則正しい生活を送れているよ、と褒められている気分になる
ダイエットは自分を嫌いにならないため
12キロのダイエットに成功した私が思うのは、太るという行為は自傷行為に近いということ
太っていた当時はそんなこと1ミリも思わなかったけれど、身体的にも精神的にも、そして金銭的にも今よりずっと余裕がなかったと思う
矛盾して聞こえるかもしれないけど、当時の愚かな私には太っている自覚が全く無かった
それでも、鏡を見た時に、痩せて見える角度を探していることには気がついていた
太っている事実から目をそらし、それでもお世辞にも痩せては見えない自分に苛立っていた
常にいらないストレスを抱え込んでいる状態
そんな中、仕事でもストレスを受けて帰ってくる日々
せめて休日は自分の好きなことだけして、自分の好きなものだけ食べて、ストレスを発散しようとドンキに出かけ、買ってくるのはポテトチップスのりしおBIGBAG(949kcal)・チョコレート・コーラ2L
今では心底理解できないけれど、常に満腹状態でないといけないという強迫観念に駆られていた
そんな自分がおかしいことには頭の隅では理解しつつ、それでも何かを食べ続けていた
これは当時の自分を知っている私にしか理解できないかもしれないが(私にも理解の及ばないところはあるが)、私は無意識に、嫌いな自分を自分で虐めていたのだと思う
セルフネグレクト……は意味が違うか。セルフリンチ?
なんと形容して良いのか分からないけれど、とにかく私は自分を虐めていた
この世に存在する、自分の理想通りじゃない自分が、大嫌いだった
満腹状態の自分にポテチを押し込む自傷行為に安心していた
大嫌いな自分が破滅していくようで、嬉しかった
……冷静に思い返してみると、当時の私はぶっ壊れてるね
よくここまで持ち直したもんだわ
そんな私が一念発起、周囲に褒めて頂けるほど痩せて、やっと私は自分を許せたのだと思う
昔みたいに満腹まで食べたいとは微塵も思わないし、お菓子の類にも全く興味を惹かれない
たまに生理前の爆食時期がやってきても、食べた分だけ体が重くなることを知って、自分に罪悪感を覚えることもできる
これは本当に、太っているときには考えもできなかったこと
だから、私にとってダイエットは、自分を嫌いにならないために必要なこと
自分磨きは、自分のためでいい
もちろん、彼氏がいて、大好きな彼氏のために綺麗でいようと美容意識を高めるのが理想だとは思う
私だって、好きな人と想い合い、高め合うのが最良だとは分かっておりますとも
でもね、もういいかなって
自分のためで、いいかなって
私は多分おかしくて、必死に『普通』を演じて生きている
『一般人』に擬態でもしないと社会に出ていけない程度には、どこか壊れている
自分が特別だなんて言ってるわけじゃなく、世間一般で言う『普通』を、必死に頑張ったところで取り繕えない劣等種だと自覚している
『普通』に恋愛はできないし、『普通』に結婚もできない
『普通』に子どもを育てることも、『普通』に周囲に看取られて死ぬこともできないだろう
そのおかしさも分かってるし、その『普通』のために努力ができない粗末な人間であることも分かってる
だけど、もう自分のためでいいよ、って自分に言ってあげたい
散々『普通』になろうと決意して、『普通』になれない自分を責め続けてきた
誰も、こんな私を見て、褒めてなんてくれない
だって『普通』じゃないし、努力を放棄した人間に見えるだろうから
でも、私はずっと頑張ってきたし、ずっと『普通』じゃない自分に抗ってきた
『一般人』になろうと今も努力し続けてるよ
だから、全部自分のためでいいよ、って声をかけてあげたい
誰かのために、じゃなく、自分のためでいいよ
メイクは、好きな人に可愛いと思ってもらうためじゃなくていいよ
コンプレックスを隠して、自信を持って笑うためでいいよ
スキンケアは、好きな人にすっぴんを晒すためじゃなくていいよ
規則正しい生活を過ごして、肌荒れのない自分を好きになるためでいいよ
ダイエットは、好きな人の隣を歩くためじゃなくていいよ
ときめいたコーデも着られない自分を嫌わないためでいいよ
自分磨きは、誰かのためじゃなくていいよ
私が、私に自信を持って、私を好きになって、私を嫌わないためでいいよ
もう、それで十分すぎるよ
そう思った、初夏の夜なのでした